億万長者のリゾート

私が始めてアメリカの旅をしていた時、ニューヨークでファッション写真家のアシスタントをしていた時期があった。その時、厳寒のニューヨークから、すっかり春の気候だという「シー・ランド・ジョージア」にロケに行く予定がはいり、すごく楽しみにしていたのだが、突然、何かの理由で私だけが行けなくなってしまってとても、残念だったという記憶がある。

そんなことを思い出しながら、サバンナからドライブで南下、大西洋岸沿いに、内海になっているインターコースタル・ウォーターウェイの橋を渡るとセント・サイモンズ島があった。

地図を見てもらうとおわかりのように、ジョージア州の海岸線は大西洋岸沿いに沖にいくつもの島がつらなっていて、その内側が外洋の波を受けずに船が航行できる航路になっている。そしてその沖の島々が、古くから開発されてきているアメリカでも有数のリゾート地なのだ。私は、その島々のひとつであるセント・サイモンズ島のキング&プリンス・ビーチ・ホテルに宿を取った。

ホテルに入り、大西洋の空気を思いっきり吸おうと思って、海に面した方の窓を開けた。さらにもっと風通しを良くしようと内陸側の窓を開けて見た。すると、突然ものすごい臭いが部屋に入ってきたのだ。そうだジョージア州は松林が多く、それを原料とする製紙工場で有名だったのだ。そういえばアメリカを代表する製紙メーカーの名前も「ジョージア・パシフィック」というではないか。この強烈な臭いは製紙工場からきたものなのだ。

せっかくのリゾート気分はすっかり半減してしまいそうだったが、今回の本当の目的はここではなく、アメリカ北東部に産業資本が確立した当時に財を成したといわれる人々が冬を越したといわれる、もう一つの南側の島、ジェッキル・アイランドを訪問することだったのだ。

気を取り直して、さっき渡ってきたインターコースタル・ウェーターウェイの橋を戻り、さらに南側のジェッキル・アイランドに渡るべく、もう一度ウォーターウェイの橋を渡った。ここまで来るともうさっきの臭いは全くない。やはりさすがにミリオンネアーはちゃんと良い場所を選んで別荘を建ているなと感心した。

その名も「ミリオンネアー・ビレッジ」という案内標識をたよりに進んで行くと、1800年の終り頃に建てられて大きな別荘が見えてくる。「グッドイヤー・コテイジ」は、あのタイヤ・メーカーのオーナー、グッドイヤーた建てたものだ。次に見えた「インンディアン・マウンド」と呼ばれる建物は、1892年に建てられたウィリアム・ロックフェラーの別荘。「メイシー・コテイジ」はあのメイシー・デパートのメイシーかと思ったが、同じ一族だが銀行家の方のメイシーの別荘だった。

このように、豪華で大きな別荘を何軒も見ながら歩いて行くと、聞いたことのある人の建物が次々と出てきて、小さく出ている表示を追いながら「次は誰の別荘かな」と、まるでミリオンネアーの別荘が、身近な友人の別荘のように思えてきて、楽しい散歩になった。

最近日本のタイヤ・メーカーに買収されたグッドイヤー社だが、当時は、大量生産の自動車にタイヤを提供することで、莫大な財を成したのだ。グッドイヤー・コテイジ。

アメリカのミリオンネアーを代表するロックフェラーの名前も、ここのミリオンネアー・ビレッジに登場する。ウィリアム・ロックフェラーが1892年に建てた「インディアン・マウント」と呼ぶ別荘。

この景色を見た時、時計の針が1800年代の終りまで戻ったような気がした。当時、モルガン財閥を築いたJ.P.モルガンは、別荘を建てずに、後ろの建物のホテルを常宿として別荘がわりに使っていたようだ。しかし、現在では日本からでも、予約センターに電話一本するだけでで部屋が取れる「ラディソン・ホテル」チェーンのひとつになっているのだ。

メイシーというと、あのニューヨークにある、世界最大と自慢しているメイシー・デパートを思い出すが、ここは、同じ一族の銀行家のメイシーの別荘だった。

「コンド」、日本語に約すと「リゾート・マンション」ということになるのか、アメリカでは当時からすでに高級リゾート・マンションが販売されていたようだ。

この地方は「ゴールデン・アイル」と呼ばれる。お金持ちの島々という意味か、それとも冬でも黄金色に肌を焼く太陽のことか。シー・アイランドのほうにある、ザ・クロイスターと呼ばれるアメリカでも有数の高級リゾート。

自転車で隣近所の家々を訪ねて回っている気分でミリオンネアーの別荘群を訪ねていると、自分もミリオンネアーの仲間入りをしているような気分になってしまうから不思議だ。

1930年に建てられたインドア・テニスコートだ。アメリカでは当時から、今日の日本のリゾートと同じような、いや、もっと進んだリゾートライフをエンジョイしていたようだ。ジェッキル・アイランドのテニス・コート。

現代のリゾート、キング&プリンス・ビーチ・ホテル。1800年代の終り、1900年代の始め頃のリゾートとの時代のギャップは感じられない。

早朝、ホテルの部屋で大西洋に昇る太陽の光を感じ、ミリオンネアーになったような夢ごこちで眼がさめた。キング&プリンス・ビーチ・ホテル。

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