未来都市、ラス・コリナスとアビレーンの牧場

 1967年、ウィリアムス氏の家に始めて招待された時、ホテルまで出迎えてくれたのは、彼の愛車でアンテイーク・カーの中でも最高級と言われている1933年のデューセンバーグだった。

 二度目に彼に会っのは、当時ダラスで一、二を争う高層ビルの最上階のオフィス。この時話した内容もアンティーク・カーの話だ。当時彼は、あのデューセンバーグの他に、同じく高級車のメイサーも手にいれて、アンティーク・カーコレクションも着々と増えているようだった。

 ウィリアムス氏は、サウスランド・ライフという生命保険会社を経営している実業家。彼のお嬢さんが日本に滞在中に私の家を訪れる機会があり、その際に「私の父は現代のカウボーイです。ダラスに来たら一度会ってみて」といわれていた。その言葉に甘えて、図々しくも彼を訪ねたのが彼との付き合いの始まり。彼と私は、車好きということで話も合い、以来、ダラスを訪れる時には、可能な限り彼の所へ立ち寄ることにしているのだ。久し振りにダラスを訪れ、町を歩いていると、当時最新式を思われたウィリアム氏のビルもすっかり古臭い感じ。本当に新旧の交替が激しい町だ。彼には改めて連絡しようと、とりあえず、最近話題になっている、ダラス・フォートワース空港近くに新しく開発された、ビジネス・センターと住宅街を併設した未来都市「ラス・コリナス」を訪ねた。

 この未来都市のシンボルは「ムスタング」と呼ばれる荒馬の彫刻が噴水になったもの。さっそくその彫刻のある広場にむかった。この噴水は、馬の口から水が出ているといった類いのものではなく、馬の足の所から出ている水がまるで川を渡る馬の水しぶきのように見えると言う、とてもユニークなものだ。

 とても珍しい噴水なので夢中になって写真をとっていると、なんと正面に建っているのは、新しく建てられたウィリアム氏のビルではないか。おまけにこの噴水の広場は、ウィリアムス・スクエアという名前だったのだ。カウボーイ達がムスタング(荒馬)を乗り回していたのと同様に、さまざまな車を乗り回しているウィリアム氏は、やはり西部のカウボーイ魂を受け継いだ人なのだろう。車の噴水ではなく、荒馬の噴水をつくったと言うことがその証拠のような気がしたのだ。

 本物のカウボーイの姿を求めて、テキサス州西部の、家畜取引所が今でも残っているアビレーンの町へやってきた。ところが、そこで私が見たのは、いかにも近代的でいかにもテキサス的なカウボーイの姿だったのだ。

 カウボーイ・ハットだけはかぶっている、現代のカウボーイ達は、ムチの変わりに電流が流れる道具で馬を追う。乗っているのは、フルサイズのキャデラックだ。合図の音が聞こえると、たくさんの牛が餌を求めてキャデラックの後ろをどこまでも追いかけ回すのだ。それはちょっと異様な光景でもあった。

 進歩が大好きなテキサス州では、すでに馬に乗って大平原を走るカウボーイという時代は終わってしまっているようだ。せめてウィリアム氏のあの噴水に現されるような、荒馬に乗っていた時代の「テキサス魂」だけはそのままでいてほしいものだ。

ダラス・フォートワース空港の近くに出現した「ラス・コリナス」は、ビジネス街を住宅街を両立させようという目的で計画された、ニュータウンだ。

ダラスとフォートワースの双子都市の間に位置する巨大なニュータウン「ラス・コリナス」。

ラス・コリナスのビルとビルの間は新交通システムでつながれている。

ラス・コリナスのシンボルがこの「ムスタング」の彫刻。ケニア出身のロバート・グレンという彫刻家の作品で、テキサスの大平原を走っていた野生の馬の彫刻に噴水のアイディアが加えられている。早くもテキサスの人々の承認を得ているようだ。

ラス・コリナスのシンボル、「ザ・ムスタングス・オブ・ラス・コリナス」の彫刻のあるウィリアムス・スクエアは、サウスランド・ライフ社のオーナー、ウィリアムス氏の建てたビルの中央にある。

現代の荒馬、アンティーク・カーを乗りこなすウィリアムス氏。

ウィリアムス氏の愛車、1933年のデューセンバーグ・モデルJ。

テキサス州の西部には、開拓されてからまだ100年位の歴史しか持たない所もある。開拓後も人々は地味に暮らしていたのだが、石油や天然ガスなどが出るようになり、様子が一変したのだ。町の所々には、今でも昔ながらのライブ・ストック・マーケットや広大な牧場などが残っている。

ブルーマーさんの牧場。アビレーンで。

牧場の中にある「ランチ・ハウス」は、一軒の住宅のようだ。

普段は広大な牧場のなかで放牧、餌を与える時には「コラル」という囲いに集める。移送する時にはこの台にトラックを寄せて積み込むのだ。

コラルからトラックに移された家畜は、町のライブストック・マーケットに運ばれる。オークションにかけられた後は新しい持ち主のもとへ散って行くのだ。オークションにかけるため、背中に番号をつけられたアビレーンの牧場産の肉牛。

車で取引所へやってくる、現代のカウボーイ達。

オークションにかけられる家畜達を取り扱っていたカウボーイ。

取り引きの仕方も家畜の取扱い方も、すっかり近代化されているテキサス州だが、その精神だけは、フロンテイア当時のままだ。

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