ホワイト・サンドは原爆実験場から宇宙開発へ

 砂漠というと普通、地面が乾燥して砂のようになっている土地のことをいうのだが、アラモ・ゴード近くにある、ホワイト・サンドの砂漠はそれとはまったく違う。いわゆる普通の砂ではなく、結晶性硫酸カルシウム、ようするに石膏でできた砂漠なのだ。おまけにここの石膏は、インテリアの材料としても利用されるほど、純度の高いものらしい。

 ホワイト・サンズ国定公園のパーク・レンジャーの話では、その昔、雨や雪解けの水が山から石膏を湖に流し込み、その湖の底に石膏が沈んだ。ところが湖が乾燥して干上がり底にあった石膏が表面にでてしまい、このようなめずらしい石膏の砂漠ができあがったのだという。

 真っ白な石膏の砂は、まるで一面雪の世界なのではないかと錯覚するほど。私が訪ねた時には、雲の白と、地面の白がちょうど同じような明るさになっていて、幻想的な、不思議な世界をかもしだしていた。

 ホワイト・サンドでは、これらの特徴をいかして、様々なことが行われてきたようだ。まずここは、世界で最初に原爆実験が行われた場所である。同じニューメキシコ州にある、ロス・アラモス研究所で作られた原爆が、実際に広島や長崎に投下される前に、このホワイト・サンドの砂漠を使って投下実験が行われていたのだ。もちろん当時の実験場所は厳重に立ち入り禁止。実験当時のことを覚えている人に会う事もできなかった。

 その代わり、地元でアピールしているのが、スペース・シャトルが地球に戻って来た時の着陸地として利用されたことがある、ホワイト・サンドだ。

 どうしてここが着陸地点に選ばれたのか、上空から実際にその景色を見て確認してみようと、サンタフェからアラモ・ゴードまで小型ジェット機で飛んでみた。すると、かなり離れた空の上からでも、ホワイト・サンドの一面真っ白の砂漠は一目瞭然。スペース・シャトルの関係者にとっては、着陸地点が簡単に見つけられる、願ってもない自然の空港だったに違いない。

 スペース・シャトルの着陸地になったということは、アラモ・ゴードの人々にとってとても自慢すべきことのようだった。その証拠にこの町では、まるで栄誉を誇示するかのような、ニューメキシコ州のロケット開発の伝統を展示する、宇宙開発の殿堂「インターナショナル・スペース・ホール・オブ・フェイム」がオープンされていたのだ。

 入り口の表札の前に、一つのお墓があった。アメリカ最初の宇宙飛行士、「ハム」という名前の猿の墓だ。ここでは、人類よりも先に宇宙に飛び立った彼に対する敬意が払われていたのだ。訪れる観光客達も、このお墓の前に立ち止まっては、彼が宇宙に旅立った意義について話しているようだった。

 このように、アラモ・ゴードの人々にとって現在のホワイト・サンドは、原爆実験の地ではなく、スペース・シャトルが着陸する、宇宙開発の場所になっているのだ。

 アラモ・ゴードの町で、スペース・シャトルの帰還の様子を見るのに一番いい場所が、サクラメント山脈の上にあるクロードクロフト・リゾートのザ・ロッジの見晴し台だ。ここは一八九九年にオープンした由緒あるホテルで、最近改築されたばかり。ニューメキシコ州の一番南、メキシコとの国境に近いところにあるのだが、かなりの標高のため、冬には雪が降り、スキー場もあるという。たしかにかなり高い所にあるため、ここから見下ろすホワイト・サンドの景色もまた格別だ。

 せっかくここまでやってきたので、このホテルに一晩滞在することにした。その晩、このホテルのオーナーと話していたところ、このホテルには「レベッカ」という美人のゴーストがでるのだと、得意げに話し出した。オーナー自らがそんな話をするので驚いて、「お化けが出るホテルなど、日本ではお客が来なくなるので内緒にしておくものですよ」と私がいうと、「この地方ではゴーストは、インディアンの文化や魂の証明なのです。ゴーストがでるということは、それに接する事だということで、お客さまが大勢やって来るのですよ」という答え。なるほど、物は考えようだ。

1933年に指定されたホワイト・サンズ国定公園。史上初の原爆実験の行われた地点から、南へ55キロほどの所にある。全体が石膏でできた砂漠で、原爆実験場や、スペース・シャトルの帰還用滑走路も含めて、ホワイト・サンド砂漠全体が、150億トンもの石膏で埋まっている。

石膏でできた真っ白な砂丘が続く、ホワイト・サンズ国定公園。太陽の光線や雲の変化によってその表情は刻々と変化する。ある時は、真っ白な雪景色のように見え、またある時は砂嵐で濃い霧がかかったようにも見える。私が訪れた時は、このように、空の雲と砂の白さがまるで同化しているようだった。

石膏だけの世界にも、良く見ると植物や、保護色の小さな動物がちゃんと生きている。

大抵の動物は夜行性。昼間訪れても見ることはできないが、その足跡だけは確認できる。

ニューメキシコ州の南部には、この他にも地質学的にも非常に興味のある地形がある。この、カールスバッド・ケイブルン国立公園は、世界最大級の規模を誇る鍾乳洞だ。1923年に国定公園に指定されたが、1930年には国立公園に格上げされている。外気が暖かい季節の日没の時間帯には、こうもりが一斉に飛び交う姿を見ることができる。

クロードクロフトのザ・ロッジの見晴し台から見たホワイト・サンドの砂漠。

火災にあった後、1911年に立て替えられた、ザ・ロッジ・アット・クロードクロフト。

このホテルに出没するフレンドリーなゴースト、「レベッカ」のステンド・グラス。

ホワイト・サンドの砂漠の町、アラモゴードにオープンした、「インターナショナル・スペース・ホール・オブ・フェイム」。宇宙の殿堂だ。今後、アメリカの宇宙開発だけでなく、世界中の宇宙開発に貢献した人々を殿堂入りさせて行く方針だ。

殿堂の建物の周囲は、世界各国の宇宙開発のロケットなどを展示するミュージアム。

アメリカ最初の宇宙飛行士は、猿の「ハム」。門の脇には、立派なハムの墓が。

ホワイト・サンド砂漠を見下ろす丘の上に建てられた、「宇宙の殿堂」。

殿堂入りした人々を紹介するとともに、宇宙開発の歴史を紹介する展示も行われている。

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