アラスカ州

 アメリカ50州の中でも最大の広さを持つアラスカ州の面積は日本の約四倍。そしてこの広さと厳しい自然をバックに、アメリカ最後のフロンティア地区と呼ばれている。

 遠い昔ベーリング海を渡ってアラスカに到着したモンゴル系の人々がそのまま定住、現在「エスキモー」とか「イヌイット」と呼ばれる人達になったといわれる。また、アラスカから南下、アメリカ本土あたりで住み着いた人々の子孫が「アメリカ・インディアン」だという説もある。このようにアラスカは、有史以前からの古い歴史を持つ土地なのだ。アラスカ州は、帝政ロシアの時代にベーリングがベーリング海峡を渡って訪れて以来、ロシア領地として組み込まれていた。その後1868年、クリミア戦争真最中のロシアは、戦費を作るため苦慮、それを知った当時のスワード国務長官が、アラスカを720万ドルで買い取ることにしたのだ。当時の国家予算が三億5700万ドルというのだから、その安さがわかるだろう。

 「スワードの冷蔵庫」といわれたアラスカだが、1800年代終りから1900年始めにかけて、ゴールド・ラッシュがおこり、その後、1968年には、北極海に面したプルドー・ベイで巨大な油田が発見された。お陰で、アラスカ州は、一人あたりの平均所得がアメリカ一。当然物価の高さもアメリカ一だ。

アラスカ一周ドライブの旅

 広大なアラスカを車で一周するという夢を持っていた私は、折りにふれて、いろいろな地図を調べていた。しかしどの地図を見ても、アラスカ州には、アンカレッジを中心とする南東部にハイウェイが少しあるだけで、あとは山や川、湖がしるされてるだけだ。

 地元の人に聞くと、アラスカ一周は、水面に着陸できる、小型飛行機にフロートをつけた水上飛行機をチャーターした方がいいという。一瞬ドライブで一周するという決意もゆらぎ、水上飛行機の飛行場へ行ってみた。ところが、目の前の湖で飛行機が不時着、ずぶ濡れで救助される人を見てしまった途端、やはり車で回ろうという決意が固まったのだ。行けるところまで車で行こういうことでいざ出発、まずは州道一号線を南下、キナイ半島へ。日本の西武が買収したという、アリエスカ・スキー場はこの半島に行く途中にある。一日思い切りスキーをした翌日は、ゴールドラッシュ時代を懐かしみ、砂金掘りだ。

 次は、車ごとアラスカ鉄道に乗って移動する。トンネルを越えると、鉄道以外には船の交通しかないという、ウィッティアの港へ到着だ。ここではカニ漁のモーターボートに乗せてもらい、プリンス・ウィリアム・サウンド湾では、捕れたてのカニをゆでて食べさせてもらった。そのおいしさといったらとても言葉では現せない。前日の砂金掘りで、一粒も見付からなかったというショックも忘れて、まるで王様にでもなった気分だった。九月、アンカレッジから北へいくコースを走ってみた。アラスカの秋の訪れは早く、マッキンレー国立公園あたりの木々はすでに紅葉まっさかり。この国立公園の中にある、アラスカ鉄道の寝台車を客室に利用している、ユニークなマッキンレー・ステーション・ホテルに一泊することにした。

 翌朝、ホテルの外はなんと雪景色。それでもマッキンレー山頂はなんとしても見ておきたい。がんばって公園内のエル・アイルソンの展望台まで車で登ってみることにした。望遠レンズでのぞいた先に見えたのは、はやくも冬ごもりの準備を始めているグリズリー・ベアーと、冬毛にかわりつつある雷鳥たち。アラスカの九月はすでに冬なのだ。

 理屈では、途中でフェリーさえ利用すれば、簡単にできる車での南東部一周だが、アラスカにおいては、話しが別。季節の移り変わりが異常に早く、厳しい。渡りたかったコロンビア大氷河へのフェリーが冬期運行停止中で、かわりにしばらく滞在したのが、立ち寄ったのがバルディーズ港だった。

 その数年後、バルディーズ港で石油タンカーが坐礁、歴史的な環境破壊になってしまったというニュースを知った。その後の様子をぜひ見にいってみたいと思ている。

その昔、労働者用のテントしかなかったというアンカレッジも、現在は一人当たりの平均年収はアメリカ一という大都市に成長。

アンカレッジからキナイ半島へ向かって州道を南下。スキー場のアリエスカ、氷河のポーテイジ、スワード、ウィッティアへ向かうコースだ。

クック・インレット湾からさらに奥に入った、ターナゲン・アームと呼ばれる入江。1778年にハワイ探検で有名なクック船長が探検に来ている所だ。アンカレッジの夏の白夜を思わせる真っ赤な夕日。本当の白夜はもう少し全体がフラットな感じになる。

9月に訪れたアンカレッジはすでに冬の気配。日照時間が少なく、すぐ薄暗くなってしまう。

アンカレッジ空港の裏の港は、水上飛行機「ブッシュ・プレーン」の飛行場。

夏のアンカレッジの夜は長い。夜の10時頃まで平気で野球の応援をするアンカレッジ市民。

アンカレッジ市内のデラニー公園。夏の短いアラスカでは、花々は一斉に咲き乱れる。

アンカレッジ郊外のスキー場。日本の西武が買収して経営しているアリエスカ・スキー・リゾート。すぐ向こうにターナゲン・アーム入江が見えるという非常に低い標高ながら、さすがアラスカ、雪質は最高だった。

ポーテイジ・グレーシャーは、アンカレッジから片道1時間ちょっと。解けた氷河が作る自然の氷の彫刻が評判だ。訪ねる度に違った表情を見せてくれる。

春のポーテイジ・グレーシャー。近くのターナゲン峠では、地元人達が冬のなごりを惜しむように雪遊びをしていた。

夏のポーテイジ氷河。氷河が大量に解け出して、なんとも美しい形を作り出していた。

ガードウッドのアリエスカ・スキー・リゾートに隣接するエリクソン・クロー・クリーク金鉱。砂金採りの道具を一式持って、夢は億万長者だ。

小川を流れてくる砂をフライパンのような「パン」で掬い上げて揺すると、砂の中に入っている、比重の重い金だけが残るという仕組みだ。

ポーテイジからキナイ半島のさらに先、グラナイト・クリークに流れ込む水をたたえる小さな湖。アラスカの午後の陽射しが頂上にあたる山々を綺麗に映していた。

フェリーでバルディーズの方へ行くときの港、ウィッティア港。ポーテイジの駅で車ごとアラスカ鉄道に乗り、トンネルをくぐらないと到着しないという、陸の孤島。

スワード・アンカレッジ・ハイウェイは、州道1号線から途中で、州道9号線になる。途中の氷結湖では湖の魚を釣っている人がいた。

プリンス・ウィリアム・サウンド湾でとれたカニをモーターボート「ワンダリング・スター号」の中でゆでて食べる。地元の人はバター味、私はもちろん酢醤油だ。

アラスカ・ステイト・フェリーは、コロンビア大氷河の脇を通って、この先、バルディーズ港まで行く。ウィッティア港には、このあたりのカニの他に、日本への輸出も盛んな甘エビも入荷される。

アメリカで唯一の「国鉄」として残るアラスカ鉄道。駅が少ない地方を通るときには、列車に向かって旗を振る人を見つけると止めて乗せるという、「フラッグ・ストップ」の方式をとることもある。アンカレッジからスワードへ向かうアラスカ鉄道の客室。

駅があるといっても、小さな標識が一つだけ。「ポーテイジ」駅。

ポーテイジの駅にきた列車には、フェリーのように、車を乗せる車両も連結されている。

アラスカ鉄道の車内は、意外と快適そうだ。食堂車はあるし、寝台車もある。ポーテイジからウィッティアのトンネル内で。

イヌイット達からは、ディナリ国立公園と呼ばれている、マッキンレー国立公園。シーズン中は、バスでしか行くことができないが、冬ということで、車で一番奥の展望台、エル・アイルソンまではいった。しかし頂上は雲の中。

国立公園内の宿泊施設、寝台車を利用した、マッキンレー・ステーション・ホテル。

雷鳥の秋の色。そろそろ冬への衣替え。

基点100マイルを示すマイル・ポスト。

アラスカのハイウェイの「ロッジ」は、日本の街道沿いにある、宿場といった感じ。

帝政ロシア時代のアラスカ文化を示す十字架も見られる。「ロシア正教」のお墓。

北極海のプルドー・ベイから、アラスカ・パイプラインが引かれて、太平洋の石油積出港となった、バルディース港は、プリンス・ウィリアム・サウンド湾の美しい港町だった。この後巨大タンカーの坐礁事故があり、その姿も変わったかも知れない。

アンカレッジからバルディーズへ向かう途中、個人が所有する氷河がある。

アメリカ史上最大の民間土木工事、アラスカ・パイプ・ライン。

バルディーズの石油積み出し基地「アリエスカ」。北極海からこの港までの距離は、東京から熊本位。この間がパイプラインでつながっているわけだ。ここから太平洋航路のタンカーで石油が運び出される。

アラスカ州の州都は太平洋岸に面したジュノー山とロバーツ山の麓にある、ジュノーの町。1880年には、ロバーツ山で金が発見され、ゴールドラッシュがおこった町だ。

ジュノーはアメリカで一番広い面積を持つ都市だ。近郊にはメンデンホール・グレーシャーを始め、グレーシャー国立公園もある。

人口2万人たらずという、ジュノーのダウンタウン。アメリカに残された最後のフロンティアという言葉にピッタリの町並み。あるレストランでは、州知事を始め、ほとんどの市民が食事をとっていた。

アラスカ州の州議事堂。石油収入で州はうるおっているはずなのだが、なぜか、こんな古ぼけたビルだった。

ジュノーのダウンタウンにあったロシア正教の教会が、帝政ロシア時代のアラスカの名残を残している。現在は観光名所の聖ニコラス教会。

アンカレッジからジュノー経由でシアトルへ飛ぶ飛行機は、フィヨルドの作り出した美しい島々、ジュノー、シトカ、ケチカンと立ち寄りながら飛んで行く。

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