ワシントン州とカスケード山脈
私が最初にワシントン州を訪ねたのは、1969年のこと。1903年、16才だった時に始めてこの土地を訪ねたという、祖母を連れての旅だった。44年ぶりのワシントン州ということで、シアトルの空港に到着する前から興奮気味の祖母は、繰り返し繰り返し当時の話しをしてくれる。
シアトルから北東部までの大陸横断鉄道が出来てまもない当時は、大勢の鉄道建設労働者や港湾労働者がアジアから押し寄せていた時代。シアトルは、まだまだフロンティアのはずれにある、新興の港町だった。祖父は、荒っぽい労働者達とのトラブルから16才の若い祖母を守るのに必死で、日本から船が到着すると、わきめもふらずに大陸横断鉄道に乗換え、そのまま北東部のボストンへ向かったそうだ。若かった祖母にとっては、船の上から想像していたワシントン州を確かめる余裕もなく通り過ぎたのがとても心残りだったらしい。
ろくろく観光もしていないワシントン州だが、船の上からみえた雪をかぶったレニヤ山の姿だけは忘れられなかったという祖母。その後アメリカを訪ねた時に、わざわざここへ寄って、夫婦でスケッチをしたという思い出も語ってくれた。飛行機の窓から見えるレニア山を懐かしそうに眺める祖母の姿をみて、がんばって連れて来てあげてよかったとつくづく思ったものだ。
私の二度目のワシントン訪問は、全米の四二州をキャンピングカーで回るキャラバン・ツアーの途中のこと。この時には、祖父母の思い出の山、レニヤ山にも登ってみた。
ツアーの都合上、時間があまりなかった私は、キャンプ場へ寄ってキャンピングカを切り離す時間ももったいないので、キャンピングカーをひっぱったまま、レニヤ山国立公園の登山ドライブへ。四月下旬ということで、途中にはまだ雪が残っている。途中からは、二メートルほどの雪の壁。こんな様子では景色を見ることができるのかと不安を感じつつも、それでも一番奥のパラダイスまでがんばって登ってみた。私の思いが通じたのか、そこでは一瞬厚い雲が切れ、祖父の絵で見慣れた風景が目の前に広がったのだ。一世紀近くも前、同じ景色を見て感動した祖父母を思い、感慨に耽ってしまった。
この様に、美しい思い出が多いワシントン州だが、辛い思いをしたこともある。
10年ほど前のこと。オートキャンプ仲間の友人で、ワシントン州に住むエクランド夫妻の家が、セントヘレン山の大爆発で火山灰流に流されてしまったというのだ。夫妻が様子を見に行くからというので、私ものこのこついていった。
被災者とその家族しか入れない、タートル・リバーの奥深くまで一緒に入っていくと、小さな小川の河畔に建っていた彼等の家は、屋根が少し形をとどめているだけで、他の家財道具を含めたすべては、家の中を通り抜けていった火山灰流に持ち去られてしまっていた。集まっていた被災者の中には、自分達が車で橋を渡り切った瞬間に橋が流されたという恐怖を経験した人もいたほどだ。
シアトルの町や近郊を見ている限り、レニヤ山や森や湖に囲まれた美しい州、といったワシントン州だが、現実には過酷な自然も合せ持った所。その陰には、人々の開発と安全に対する努力があるということを強く感じた訪問だった。
両側が2メートルほどの雪の壁になっている、レニヤ山国立公園内の登山ドライブ道路。行けるところまで行ってみようと登り続けると、まもなく、真正面に見覚えのある景色が広がって来た。このパラダイス見晴らし台付近は、クロスカントリー・スキーで降りてくる人のコースになっている。 レニヤ山国立公園内のドライブ。早春の公園内にいた野生の鹿。キツツキの作った穴もたくさん見つけた。 カスケード山脈の北の方、スキー場で知られたリーベンワースの町は、女性市長のアイディアで、特徴を出すため、ドイツ風の町並み。 マウント・セントヘレンの大噴火の跡地は現在、国立公園に指定されている。被災当時、タートル・リバーから流れ出た火山灰流が流してきた木々。 フィヨルドが作り出した美しい入江、ピュージェット・サウンドの奥深くのタコマ港近くにある、美しい漁村、ギグハーバー。 ワシントン州のもうひとつの国立公園は、オリンピク半島にある、オリンピック・ナショナル・パークだ。半島の南西側が雨林、北東側が極端な乾燥地域になっている。これはクエナルト付近の雨林。 ワシントン州のカスケード山脈から、南のオレゴン州をぬけ、カリフォルニア州のシエラネバダ山脈を貫く山岳縦断トレイル、「パシフィック・クレスト・ナショナル・シーニック・トレイル」。 州の東半分は、アリゾナ州から続く暖かい乾燥した風が入ってくる巨大な谷の一部になっている。アイダホ州から、州南東部一帯、それにオレゴン州北東部一帯をまとめて、「オレアイダ地方」と呼び、アイダホ・ポテトの名産地になっているのだ。 カナダからワシントン州、そしてオレゴン州境と流れるコロンビア川。 グランド・クーリー・ダムのスチームボート。ロックス・ステイト・パーク。 ワシントン州の真ん中を南下してきたコロンビア川は、州南東部で大きく西へ曲り、オレゴン州との州境を太平洋まで流れて行く。大きく曲がる手前のペスコ付近にはたくさんの橋がかかっている。 州北部、カナダ国境に近い所でカスケード山脈を越える登山ハイウェイ沿いには、静かで落ち着いた、美しい湖がたくさんある。ここも、アウトドア・スポーツの素晴らしいフィールドだ。 コロンビア川のダムを代表し、また世界最大級のコンクリート・ダムといわれるグランド・クーリー・ダム。水力発電所の発電機も、もちろん世界最大級。 グランド・クーリー・ダムが作った人工湖、フランクリン・D・ルーズベルト・レイク。クーリー・ダム・ナショナル・リクレーション地区に指定されている。 カナダのオカナガン・バレーまでつながる乾燥した地域の一部、オマックは、林業と毎年8月に行われるロディオ大会で知られるところ。 その水量では、ミシシッピー川をもしのぐといわれるコロンビア川。下流のオレゴン州との州境には、観光用の外輪船「コロンビア・ゴージ号」がある。 アイダホ州との州境に近いスポケーンは、1974年の水をテーマとした万博の開催地。コロンビア川の支流、スポケーン川と万博会場。 林業の盛んなワシントン州には、全米へ向けてクリスマス・ツリーを出荷する、クリスマス・ツリー・ファームもある。南西部ワシューゴ付近。
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