ワシントン州
北東部にあるワシントンD.C.と一緒にされがちなワシントン州は、直線距離にすると、本土では日本から一番近い州でもある。以前は、オレゴン・テリトリーの一部だったのだが、1889年に分離、合衆国初代大統領の名前をとって、ワシントン州として独立した歴史を持つ。
州最大の都市シアトルや、港町タコマあたりの海岸線は、フィヨルドがつくったピュージェット・サウンド湾に含まれ、外海から大きく中に入っているため、波も無く自然な良港がたくさんある。ここからはアラスカへのフェリーも出港している。
また海岸線は、太平洋から入ってきた湿った空気が山脈にあたるため、年間を通して雨量の多い所でもある。そしてその水資源が、この州の経済の柱にもなっているのだ。巨大なダムを利用した水力発電所が作られ、ここで生産される安価な電力がこの州の航空機産業の発展に貢献しているというわけだ。
太平洋岸のコーストレンジ山脈、内陸に入ったところのカスケード山脈と、二つの山脈に州が分断されている結果、西側は雨量の多い地域であるのとは対称的に、山脈の東側は乾燥した地域になっている。その際たる例は、コーストレンジ山脈のオリンピック半島。西側はオリンピック国立公園になっている雨林が広がっているのに、山一つこえると、アメリカ一乾燥した地域になっているのだ。
海と湖と森に囲まれた都市、シアトル
シアトルは、私が最も頻繁に出掛ける都市の一つだ。なぜかというと、この町には、戦後フルブライトの交換留学生としてアメリカに渡り医学の勉強をし、シアトルで開業している遠い親戚、ドクター・カツラが住んでいるからだ。お医者さんの家に滞在していれば、長期の旅行でもなにかと便利で安心、つい足が向いてしまうというわけだ。
彼が開業する町にあるワシントン大学は、アメリカ北東部を代表する名門校、そこに隣接する付属の大学病院も一流と評判だ。ピージェット・サウド湾からシアトルの東側にあるレイク・ワシントンをつなぐワシントン・シップ・キャナルをボートで抜ける度に、そこから見えるキャンパス群をながめ、ぜひいつかそのキャンパス風景の写真を撮らなければと思っていた。
取材の許可さえおりればいいと思っていたのだが、実際はそんなに簡単ではない。たとえ写真の撮影といえども、患者への精神的な影響が出ないとも限らない。万が一その後の医療に影響を与えでもしたら、病院の責任になってしまう。そこで、患者全員の許可をもらえるまで待機しなさいというのだ。そして撮影を許可したとしても、撮影されたという事実は、患者のカルテに書き込まれるという。なんとかOKをもったのだが、後々の責任も考えると、とても神経を使う撮影だ。ところが、患者さんの顔色をうかがいながら病院内をうろつくと、こちらがはらはらするほど、元気ポーズをつけてくれる患者さんが大勢いる。手術直後の患者さんの写真さえ撮ることができたのだ。また、病院を手伝っているボランティアのおばさんもみんな、とても協力的。お陰で心配したトラブルもなく、無事撮影を終了することができた。
シアトルの町でもう一つ紹介したいのは、ワシントン大学近く、ワシントン・シップ・キャナルの途中にあるポーティジ・ベイ湖畔で見つけた「ボート・ハウス」だ。いままで、湖の上に浮かぶキャンピングカー、「ハウス・ボート」は、あちこちで何度となく見てきたのだが、ここに浮かんでいるのは、ハウス・ボートではなく、ボート・ハウス。市から特別許可を貰って、岸につないだボートの上に家を建て、ここで生活をしているという人々の立派な住居だ。土地の税金はかからないし、町の近くだし、交通の便はいい。いかにも港町シアトルらしい住宅だ。
スミス・タワー。 スペース・ニードルからシアトル市街の向こうに、「タコマ富士」と呼ばれる、レニヤ山が見える。 つい最近まで、高層ビルといえばスミス・タワーだけだったシアトルに、次々と超高層ビルが建ち並ぶ。ケリー・パークの見晴らし台より。 シアトル・タコマ・インターナショナル・エアポートに着陸する直前の飛行機の中からみた、シアトルの市街。手前が太平洋航路の貨物船を始め、アラスカへのフェリーや港内の観光船などが出入りするシアトル港がある、ピージェット・サウンド湾。市街の向こう側には、レイク・ワシントンや、ユニオン・ベイが見える。 日本からのコンテナ船などは、シアトル港内の南側に着岸するようだ。 シアトル港に近いパイク・プレイス・マーケット。農産物や魚介類が買える。 シアトル発祥の地は、パイオニア・スクエアとして保存されている。1852年当時の町並みは大切に保存されると同時に、再開発も行われ、ギャラリーやレストラン、ブティックなどに生まれ変わる所も多いようだ。 「レイク・ワシントン・シップ・キャナル」と呼ばれる運河にある水門。通称「ガバメント・ロック」のこの水門の正式名称は、ハイラム・M.チッテンデン・ロックス。海水のピージェット・サウンド湾と、真水のレイク・ワシントンの水位を調節するために作られたものだ。太平洋からあがってくるサーモンにとっては難所の一つ。 この地方では、アメリカ大陸の発見は、コロンブスではなく、北欧のバイキング、この像のリーフ・エリクソンだと信じている人が多い。 ガバメント・ロックの脇の、サーモンが登る階段、フィッシュ・ラダー。 運河の途中にある、レイク・ユニオンのフィッシャーマンズ・ターミナル。 市街の東側、レイク・ワシントンに浮かぶ橋、エバーグリーン・ポイント・フローティング・ブリッジ。この橋を渡った向こう側は、湖畔に面した高級住宅街だ。湖畔に浮かべたモーターボートで通勤もできるし、週末には運河を通って、ピージェット・サウンド湾の数々の島を訪ねることもできる。水上飛行機を利用する人も多いようだ。 シアトル名物の浮橋。コンクリートでできているのになぜか浮いている。 ポーテイジ・ベイにつながれている、「ボート・ハウス」。 ワシントン・シップ・キャナルの途中のポーテイジ・ベイから、レイク・ワシントンが見える。左側の一帯は、州立のワシントン大学のキャンパス、275万平方メートルという広大なもの。 ワシントン大学のキャンパス。キャンパスが一か所にまとまっている大学で、ここに合計128もの建物が建っている。中にワシントン大学病院も見える。 ワシントン大学の敷地内にある、医学部の付属病院。アンビュランスと表示されてる、救急車が来ていた。 各患者のホーム・ドクターと呼ばれる担当医のいるクリニック。患者の容態を確かめながら、チームの人達と相談して治療が進められる。 1861年創立と、州立の総合大学としては2番目に古い伝統を持つワシントン大学。大学の入り口で。 医学部の他に、看護学部、林学部、水産学部、海洋学部など有名な学部がたくさんある。建物も、ネオ・ゴシック・スタイルから、近代的なものまで様々。 ワシントン大学病院の病室、「ペイシェント・ルーム」。個室のほかに、この様な2人部屋もある。 シアトル市民が一番頼りにしている病院が、このワシントン大学校内の、「ユニバーシティー・ホスピタル」。 ピュージェット・サウンド湾内の島、ブレーク島までシアトル港から観光フェリーが出ている。インディアン文化を紹介するディナー・ショーが評判。 「アルダー」という焚き火で焼き上げるインディアン伝統のサーモン・バーベキュー。食事のあとはダンスの披露だ。 シアトルは、ボーイング社の町。空港近くにはテスト飛行場や航空博物館がある。人気は、郊外エバレットの組み立て工場の見学コース。 北隣はカナダというワシントン州。国境を越えて北へ進む道路には、検問所が設けられ、出入国審査や、税関審査が行われる。 シアトルが大きくなるに従い、周辺都市も成長してきている。レイク・ワシントンの東側で台頭してきたベルビュー市。「ニンテンドー」のアメリカ本社がある町だ。 シアトル・タコマ・インターナショナル・エアポートをシアトルと共有するタコマ。一時は太平洋航路の港町として栄えていたが、現在ではシアトルの一部といった存在だ。 ピュージェット・サウンド湾の一番奥にあるのが、州都オリンピア市。オリンピック半島一周ドライブのスタート・ポイントでもある。ピュージェット・サウンドのマリーナ越しにみる州議事堂。
≪≪前へ 目次 次へ≫≫