灼熱の太陽とデスバレー

 シーレベルから谷底までの深さが八五メートルという、死の谷デスバレー。以前海だったものが太陽熱のために蒸発してできた谷だ。谷底には、煮詰められた海水によって、濃い塩分を残した池もある。いかにも怖そうなその名前からか、最初にこの場所を訪れた時は、なんとなく恐る恐るといった感じだった。

 ところが車でデスバレーの谷に入ってまず目に付いたのが、谷底にデンと構えるお城のようなスペイン風のホテル、ファーネス・クリーク・イン。まさか宿泊施設があると思っていなかった私は、わざわざキャンピングカーを引っ張ってきたのだ。次に来る時は、必ずこのホテルに泊まってやろうと決意した。オートキャンプ場の20倍もの料金をとるそのホテル、二度目の訪問の時は、高い料金を払うのだからと、ホテルのマネジャー氏からなるべくたくさんの情報を得ようと思い、何度もホテルへ電話してからでかけた。

 夏の暑い盛りに、ラスベガスからデスバレーへ向かうという私に彼は、太陽が高く登る前にホテルに到着できるように、安全に谷に入ることができる秘密の近道を教えてくれた。早朝にラスベガスを出ること、谷底でのドライブも、午前中か、夕方にしなさいとのことだ。真夏のデスバレーとは、本当に厳しいものらしいのだ。

 以前にもまして緊張して車のチェックをして、いざ出発。マネージャー氏が教えてくれた道は意外なほど快適で、早々とホテルに到着してしまった。いくら水を飲んでも一日中トイレへいかなくても平気という程、乾燥して暑いのだが、マネジャー氏が脅すほど怖い所ではないようだ。しかし、きつく注意を受けていた私は、いわれた通りに、午前中に観光を済ませなければいけないと、大急ぎであちこち走り回り、お昼が近付いて来たらいったんホテルに戻り休憩。夕方再び、午前中に時間ぎれであきらめた砂丘へ回った。

 どうせ夕方なら、太陽がなるべく地平線に近づいている写真を撮りたいと、車を降りてじっと待っていると、突然あたりが真っ暗に。どうも砂嵐の到来らしい。

 あわてて車に戻ったのだが、車の窓やドアから、まるで水のように砂が流れ込んでくる。車は飛ばされそうだし、周りも何も見えない。このままではどうなるか分からないので戻ろうとするのだが、とてもUターンなどできる状況ではないのだ。必死になった私は、そのままバックで何百メートル走る。ようやく砂地獄から抜けたしたあとは、ほとんど虚脱状態だ。デスバレーは、本当に怖い所だ。

1927年に完成した、豪華なホテル・ファーネス・クリーク・イン。1933年、デスバレーが国定公園に指定される前からここに建っているホテルだ。

アドベンチャー・トリップが大好きなアメリカ人にとって、この灼熱の砂漠の冒険は古くから人気が高い。冒険の合間にはこのプールでのんびりと。ファーネス・クリーク・インのプール。

ファーネス・クリーク・インの中にあるフィッシュ・ポンド池。まるで砂漠の中のオアシスといった感じだ。リゾートとして開発されてはいるが、未知の部分が残っている可能性を教えてくれる。

一時は鉄道も引かれていたこともあるという、デスバレー。しかしここへは昔から、車で来る観光客が多かったようだ。

バイクで訪れるのもまたおもしろい。風や暑さを直接肌で感じられ、アドベンチャー気分が満喫できることうけあいだ。

現代では、エアコン完備の観光バスも訪れているデスバレー。

「デスバレー・49ナース」という、開拓当時をしのぶキャンプ大会が開催されていた。

ファーネス・クリーク・インには、テニス・コートも完備されている。

観光名所デビルス・ゴルフ・コースだけではなく、本当のゴルフ場も用意されている。

広大なデスバレーをバイクで駆け抜ける人。開拓時代には、ここを多くの馬や幌馬車が通っていたのだろう。

サンデューン(砂丘)の夕方。太陽が西の山陰に隠れると、周りはすっかり月夜。こんなところで夜を迎えると、なんとなく感傷的な気分になってしまう。

デスバレーの中では、実に様々な風景をみることができる。さながら地球の地形の博物館のようだ。ここはバッドランドのような地形を見せてくれる、サブリスキー・ポイント。

地表の水分が乾燥して、ひび割れができているところもある。

砂漠の植物の代表、サボテン。早春のデスバレーで見つけた岩陰の小さなサボテン。

早春のデスバレーを彩っていた、野菊のような花。

デスバレーの谷底を走る道路。次の見所までかなりの距離がある。

「マッシュルーム・ロック」という火山性の岩が残されていた。

ファーネス・クリーク・インから北、ストーブ・パイプ・ウエルス・ビレッジへ向かって走ると、サンデューン(砂丘)がある。風が吹くと砂嵐を巻き起こし、また新しい景色を作り出す。砂嵐のあとに見る景色は、さっきまでのものとまったく違ったものだ。

日が暮れるにしては少し早すぎると思っていると、急に砂嵐が襲ってきた。車のちょっとした隙間から、砂が流れるように入ってくるのだ。

砂嵐の中心が右側にある地平線のかなたへいってしまうと、今度はデスバレー全体が本当に地獄の世界のような形相になってきた。(フィッシュ・アイ・レンズで撮影)

デスバレーを囲む山脈の一つ、ブラック山脈の頂上、標高1669メートルのダンテス・ビュー展望台。ここまで登ると、谷底とはうってかわった寒さだ。白く見えるのは、谷底の塩の砂漠。

谷底に残っている、大昔の海の名残のバッドウォーターと呼ばれる池。湧き水もでている。

地下300メートル以上まで95%以上、食卓塩ほどの純度を誇る塩砂漠、デビルス・ゴルフ・コース。

本来なら、このバッドウォーターは、水面下85メートルにあるはずのところ。岸壁の途中にあるシーレベルの表示が小さく見える。

地下水によってできているバッドウォーター付近の塩砂漠は水分があるため、地表が平坦だ。アメリカ西部、ソルトレーク砂漠に似ている。

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