古き良き時代のウィンストン・セーレム

1875年に、R.J.レイノルズ・タバコ社がここに設立されたのと同じ頃にできた、比較的新しい町ウィンストン。ここに住むのは、ほとんどタバコ社で働く人々だ。そして1753年、現在のチェコ、モラビア地方から移住してきたモラビア人によって作られたのがセイレム。伝統を重んじ、歴史的な価値を大切にしている町だ。この二つの町が合併してできた、現在のウィンストン・セーレム市は、市内に全く違う特徴を持っている二つの町をもっているという、不思議な所だ。

R.J.レイノルズ・タバコ社は、世界最大のタバコ会社として知られていた。もちろん、現在でもその規模は変わらないのだが、やはり最近の世界的なタバコ離れの影響は、かなり強く受けているようだ。

特に嫌煙運動が盛んなアメリカでは、喫煙者数は激減している。一時は、タバコ産業によって得た巨大な利益を、国内各方面の産業へと投資して、町全体をタバコ社の企業城下町といった雰囲気に染めていたウィンストンのダウンタウンは、今は全く生彩がなく、しおれた感じになっていた。ダウンタウンの高層ビルも老朽化して町全体が暗い。最近進出してきたパンティーストッキングのメーカー、ヘインズ社があるので、かろうじて都市として成り立っているのではないかとさえ感じられる程なのだ。

歴史的に新しい町だけに、その衰退の様子はなんだか悲しいものがあったのだ。

一方古い伝統を持つセーレムの町の方には、「オールド・セーレム」という、1766年から続いている古い町並みが保存されている地区がある。この地に移住してきたモラビア人というのは、とても伝統を重んじる民族。今でもクリスマスの時には窓の下や、軒の下に「モラビアン・スター」と呼ばれるモラビア人独特の、星型のランタンを灯してクリスマスを祝ったりもしているのだ。

アメリカ合衆国の独立より十年も前にできた町セーレムには、今でもその当時の建物が数多く残されていて、当時の生活をそのまま続けている家庭もあるというのだ。それらの内の九軒の家は一般公開していたので、ちょっと覗いてみた。

ここの人達も、バージニア州のウィリアムズバーグの人達と同じく、当時の服装のままに当時の家で暮らしているという。でも、今ではすっかり観光名所になっていて、入る時には入場料を払う、まるでテーマ・パークのようになっているのだ。当時の服装もなんだか制服を着ているのではないかと錯覚してしまいそうだったのだ。

しかし、普通のテーマ・パークと違って、人工的なものは何一つなく、家も街並もすべて昔から続いてきているものだ。住んでいる人々も、モラビア人達の子孫たちだったりして、まるでタイムスリップしたような、不思議な感じを味わったのだ。

今は歴史も伝統もなく、さびれる一方のウィンストンの街も、いつかタバコというものが全面的になくなったあかつきには、タバコ産業の歴史を証明する、貴重な「テーマ・パーク」として、見事によみがえる日がくるのではないか、などと考えながら歩いた。

1700年代のまま、頑丈な建物がたくさん残っている、オールド・セーレム。ヨーロッパから移住して住みついた、モラビア人達が造りあげた街が、いまでも残されているのだ。

オールド・セーレムを馬車で案内してもらうと、当時の人々の生活が肌で感じられるようだった。

街の共同井戸。当時もここで井戸端会議が行われていたのだろう。

当時の生活をそのまま文化として保存しようと努力している様子がよくわかった。

1700年代中頃の産業もそのまま保存してあった。

重い水汲みは、女性の仕事だった。

モラビア人は、ヨーロッパでは、オーストリアの支配を受けたり、チェコスロバキアに統括されたり、ドイツの保護領になったり。周囲にある強国の支配を次々と受けた、苦難の歴史の後、アメリカへ移住してきたのだ。

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