アメリカの代表的な農村地帯

素朴で純真なイリノイの農民達は、アメリカの良心そのもの。そんな彼等に出会う事ができたのは、アメリカ人の友人がイリノイ州に引っ越して、コーン作りを始めるから遊びにおいで、との連絡をもらったのがきっかけだ。

前々からアメリカの田舎の生活というものを体験したいと思っていた私はさっそく、イリノイ州の西側を流れるミシシッピー川からすこし東へ入った、ピッツフィールドという村の近く、マーティンスバーグに住むその友人を訪ねてみることにした。

ピッツフィールドの人口が約4100人、そしてすぐ近くにあるマーティンスバーグは、地図にも出てこないような小さな小さな村だ。農家の納屋の壁を利用した村の人口の標識には、まるで自慢するかのように「30人」と書かれていた。

マーティンスバーグに外国人が訪ねてくるという噂は、すでに地元の新聞にも紹介されており、村をあげての大ニュースとなっていた。私の滞在中のスケジュールは、私の知らないうちに、まず新聞社を訪問、次ぎにラジオ局、翌日はライオンズ・クラブ訪問などと、有名人なみに組まれてしまっていたのだ。

VIP待遇の毎日で、さぞかし窮屈になってしまうのかとも思ったが、新聞社もラジオ局も訪れる所はすべて車で五分位の所。村の人々もすべてのんびりしたものだ。これがアメリカの田舎の生活なのだと、肌で感じることができた滞在だった。

滞在中のある日、友人が申し訳なさそうに、ひとつお願いがあるという。忙しいのはわかっているのだが、もうひとつだけスケジュールにいれて欲しいというのだ。なんと「生まれてこのかた、外国人を一度も見たことがないので、死ぬまでに一度見てみたい」という投書が新聞社に来たらしいのだ。

私で役に立つならと、さっそくその夫人を訪ねることにした。

翌日、その家のドアのベルを押すと、中から待ってましたとばかりに出てきたおばさんは、一張羅の洋服に美容院にいってきたばかりの頭。腕に抱かれた赤ちゃんまでが緊張した様子だ。「私が外国人です」と名乗るのも変し、何と言って話しかけていいのかわからずに手持ちぶさたなので、カシャカシャと写真を撮っていると、向こうも私にどういう態度でいたらいいのか分からない様子。まるで「この生き物はなんだろう、いったい言葉が話せるのだろうか」といった目つきで、まるで異星人でも見るように、遠巻きにじっと見つめるだけだった。

アメリカの町や村入り口にはたいてい、町村名と人口が表示されている。普通は標識が建っているのだが、この村では納屋の壁を利用していた。まるで自慢するような、ひときわ大きな看板だ。

地元のローカル・ラジオ局を訪ねてみた。彼がアナウンサー兼事務員兼受け付け兼ディレクター、つまりこの放送局は1人でやっているのだ。だから彼は放送中でも電話がなると電話にでてしまう。

地元の新聞社。彼等が私の訪問を報道してくれたお陰で、素晴らしい取材ができたのだ。そのお礼をいいたくて訪ねてみた。この写真集がでたら、またニュースになるのだろうか。

村にあるアンティーク・ショップ。仕入れをして売るというよりも、先祖代々たまってきたガラクタを処分している、という感じの店だ。

ピッツフィールドの小学校訪問もスケジュールに組まれていた。まるでどこかの国のVIPになったような気分。

地元のライオンズ・クラブのミーティングにも招待された。外国人がカメラを構えているという様子が彼等を興奮させているようだった。

私の友人は、以前は合衆国政府の仕事をしていたのだが、引退して今度は、アメリカの代表的な農村で農場経営をしてみたいと思い、この村に移り住んできた。

日曜日の朝は教会へ行くのが習慣になっているキリスト教徒。私も当然同行させてもらう。

「外国人を一度も見たことがない」と、私との面会を求めて来た女性。

ピッツフィールドの村は「ポーク・キャピタル・オブ・ザ・ワールド」。ブタの生産世界一を誇る村なのだ。

ミシシッピー川流域の農業地帯に属するピッツフィールド付近は、川からいくつかの台地の段を上った所にある。何万年、何憶年とかけてミシシッピー川が運んで来た肥よくな土壌をもった所だ。

何百年も昔から変わっていないと思われる、ピッツフィールド付近の景色。

好きな家畜を育てながらの人生が長年の夢だったという、友人。

小さい頃から農機具になれ親しんで育つ子供達。

化学肥料の使い過ぎで、農地として利用できなくなってしまう土地が増えてきているアメリカで、この地方はミシシッピー川が運んでくる天然の肥料が肥よくな土壌を作り出している。この真っ黒な土が、これから育つ農作物の味を物語っているようだ。

乳牛や肉牛もこの地方の特産品。牛肉の味はまるでトロのようだった。

ベーコンやソーセージになって家庭のテーブルにのる、特産のブタ。

おだやかな起伏のあるピッツフィールドの農場の朝。平和そのものだ。

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